『森があふれる』彩瀬まる
妻が発芽した。
知り合いからそんな話を聞いたらどう思うでしょうか。
そんなことあり得ない、と思う人が大半ですよね。
小説家の妻が木の実を食べて、体中からぽつぽつと芽が吹き出します。そんな事態になっても彼女は焦ることなく、夫に水槽のような入れ物に入れてもらって気持ち良さそうに水やりをされ育っていきます。
彼女が居る部屋はやがて森になってしまいました。
小説家はそれをネタにして作品に反映させます。
この本は小説家の担当編集者や小説教室の生徒など、複数の視点から語られます。
男女の不倫が話の中心になりますが、人間が森になるという設定が面白いと思いました。
小説家と不倫関係にある小説教室の生徒視点で、彼女が自分の生き方を振り返る場面が出てきます。
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木綿子を分裂気味の非現実的な女だと思っていたけど、本物の私の方がよっぽど広く、深く、分裂している。
でも、大人ってそういうものじゃないか。
たくさんの期待に応えた。努力して気をつかった。~それなのに、この世の誰一人として、私を見ていないと感じるのは何故だ。
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彼女はいわゆる優等生的な生き方をしてきた人でした。親の言いつけを守り、周りの大人が喜ぶように行動してきた人です。
空気を読むことが重要視されるこの頃ですが、彼女と同じ気持ちを抱えている人は少なくないのではないかと感じました。
あと、如雨露(じょうろ)は漢字にすると綺麗だと気付かせてくれます。